「脳を保存することについて」


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[投稿者 アノニマス(一般読者)様]

クライオニクス論パートVのV-07〜10にかけて次のような記述がありますが、脳内の神経ネットワーク構造をありのままに保存することはできる可能なのでしょうか。
本文V-07〜10より引用
「脳の中の神経ネットワーク構造を保存するということは、私たちがこの世界を意味づけ、存在を見出す能力を維持することです。即ち、脳の中の神経細胞のネットワーク構造を保存することは、個体存在の根本的な前提となるものです。」....(中略)....「私たちのような生ある個体にとっては、獲得された存在にこそ唯一無二の価値があります。」....(中略)....「宗教があの世の世界を想定することで魂の永続を約束したのなら、科学はこれに代わるものとして、実現可能な科学的手段によって、脳という生体構造をありのままに保存する必要があることになります。」
[投稿者 清永怜信]

当サイトを開設するまでに届いた一般読者様からの投稿です。議論の輪を広げるためスレッド化しましたが、以下の回答はあくまで清永の現時点における私見であり、議論のための参考にして頂ければ幸いです。皆様からの御意見をお待ち致します。

結論から言えば、現時点では確かに難しいかも知れませんが、脳のような複雑であるが比較的均質な組織からなる器官の場合、クライオニクス処理が有効に働くモデルケースとなりやすく、近日中に実現するだろうという回答になります。詳しくは、クライオニクス論パートVのV−19〜V−29あたりをお読み頂きたいと思います。ここでは質問と関連して、クライオニクス技術の実用化を推し進める唯一の力は、これからクライオニクスに従事しようとする人材と、彼らをサポートする資金だということを強調させて頂きたいと思います。この2つが揃えば、クライオニクスは大きく前進することでしょうし、そのための青写真もあります。

まず人材ですが、クライオニクスの研究を本気で考えている研究者が果たしているのかという点ですが、海外では既に事業化されている例が既にあることをV−15で紹介しています。国内でも、私の知る限りでも、条件さえ整えば参入する研究者が少なからずいます。次に資金ですが、クライオニクス研究を銘打った申請は、公的にはほとんど認められず、研究者自身も雇用される環境を整えなければなりません。特に、後者の資金面は深刻かつ可及的速やかな問題であり、クライオニクス実用化への青写真があっても、肝心の研究そのものに着手できないまま、無為に貴重な時間だけが過ぎているというのが現状なのです。個人で出来ることにはおのずと限界があります。皆様からの御支援御協力をお願いする次第です。

 
 B-01
[投稿者 ハッシー様]

「クライオニクス論」の「V-27〜28」に記述があるクライオニクスが日本国内で普及するまでの過渡期において、最も有効な選択肢は何であるかについて考えてみました。クライオニクス後の蘇生について現実性があり、かつ選択可能な保存方法とは一体何でしょうか。

日本国内には現時点でクライオニクスの処置を受けることが可能な施設はありませんし、保管施設もありません。いずれは日本国内でもクライオニクスが広く認識され、本人が希望すれば高度なクライオニクスの処置を受け保管されることが可能になる時代が来ると思いますが、それまでの過渡期において日本国内で選択可能で蘇生について現実性がある保存方法を考えておく必要があると思います。

選択肢の1つとして、遺体を凍結しない温度で保冷しながら米国まで輸送して、米国内のクライオニクス団体で処置を受け保管する方法があります。日本国内の葬祭業者と提携すれば輸送は可能だと思いますが、やはり問題となるのはガラス化の処置を受けるまでの時間の長さです。この場合は空輸でも輸送に1~2日はかかると予想され、保冷されている点を考慮しても、酸欠による脳細胞の壊死は将来的な技術をもってしても蘇生が不可能なレベルに達すると考えられます。氷晶による脳細胞の損傷と酸欠による脳細胞の壊死のどちらが将来的な技術によってもより修復が困難な問題であるかは予測しがたいですが、凍害防御剤が血液脳関門を透過できずに脳細胞に達していないのであれば、実際の凍結時における脳細胞の保存状態は凍結防御剤の有無に関係なく冷却速度のみに依存することになるので、凍害防御剤による処置を受けるために輸送に1~2日を費やすことは、脳細胞に関しては保存の状態を悪くする結果になると考えられます。海外の技術を模倣するだけではなく、「将来的な技術によっても解決しない問題は何か」を考慮して、より現実的な選択肢を考えていくことが日本国内でのクライオニクスの発展の過程において重要だと思います。
[投稿者 清永怜信]

大変建設的な御意見を頂きましてありがとうございます。まだクライオニクス処理やその保管設備もない日本において、何が現実的な選択肢であるかを問われています。このような御意見は極めて重要で、かつ、我々がいま最も真剣に取り組むべき課題だと思います。また、ご質問内容の一部は、スレッドWとも関連しますので、そちらの回答もご参照下さい。

まず、遺体を凍結しない温度で保冷しながら、クライオニクス施設のある米国に輸送し、適切な処置を受けて保存する方法についてですが、ハッシー様が解説して頂いた通り、これは現実的ではありません。本文III-27にもありますように、クライオニクスの前処理は死後間もなく開始しなければ意味がなく、遺体を保冷して空輸しているような時間は全くないのです。米国にある既存のクライオニクス施設でも、凍結保存を受ける患者には、適切な処置を施すスタッフが予め待機し、間髪を入れずに前処理に入るプロトコールが組まれており、そのための専門会社もあります。

次に、氷晶形成と脳細胞酸欠の問題や、脳細胞の保存状態が凍結速度にのみ依存するという問題については異論がありますので、スレッドWの方をご参照頂くとして、海外の技術や設備だけに頼らず、日本発の独自のクライオニクス技術を発展させるという御意見には全く賛成です。ハッシー様は、スレッドWでご質問されている内容から推察するに、日本発の独自技術を活かし、新しい冷凍技術の開発によって、日本がリードできるような体制を整えるべきであるというニュアンスでご提案されているようですが、清永の考え方を以下に書きたいと思います。

現代のこの分野の最新知見に基づけば、クライオニクスを支える技術はガラス化しか考えられません(詳しい理由をスレッドWに書きましたので、そちらをご覧下さい)。従って、現実路線で考えるのであれば、日本発の技術は、例えば、いかに効果的なガラス化を容易に達成させるかなどの新規技術の開発が重要だと思います。重要なことは、こうした確実にクライオニクスを実現させるための確かな技術開発を、米国に頼らず日本で着手して実現することです。例えば、W−01にも書かせて頂いた通り、そのために必要な学術的準備は既に揃っています。あとは行動を起こすのみです。 本文III-28に書かせて頂いた通り、まずは少数でも真剣な有志が集合し、日本でモデルケースとなる研究成果を挙げることに尽きます。最初から完璧である必要はありません。これはもはや草の根運動です。

その一。
Q.クライオニクスを目指す本気の研究者を集めることができるか
A.真っ先に清永が手をあげましょう。

その二。
Q.クライオニクスを実現できる人材を各方面から揃えられるか。
A.草の根運動で広く募集をかけましょう。

その三。
Q.それを実行できるだけの資金があるか
A.いつかこのホームページをご覧になられた方の中から、その志を汲み取って頂ける方が現れることを信じたいです。

そもそも拙著クライオニクス論は、全体を通じてこの運動を展開したいがために出版したわけです。よろしくお願いします。
 



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